「良かれと思って」の無償対応がチームを潰す。運用リーダーが持つべき「コストとサービス全体像」の感覚

もっち

  • 関東大手SIer勤務
  • 10システム、仮想サーバ約200台の基幹系システムが稼働する仮想化基盤のインフラ運用リーダー

以下3点について、ブログで役立つ情報を発信

  1. インフラ技術・システム運用
  2. キャリア・マネジメント
  3. エンジニア実務・仕事術

「これ、ついでにやっておいてもらえる?」

顧客や他部署からのそんな一言に、あなたは「いいですよ」と即答していませんか?

かつての私はそうでした。「技術的に可能だし、喜んでもらえるなら」と、無償で対応し続けることが正義だと思っていました。しかし、その善意が数年後、チームの首を絞め、自分自身のキャリアの壁になるとは、当時は思いもしませんでした。

私は18年間、大手SIerで200台規模のインフラを支えるサービスマネージャーとして働いてきました。多くの修羅場を経験して気づいたのは、「作業」をこなすだけの運用担当から、サービス全体を動かす「リーダー」へ脱皮するためには、技術力以上に大切な「視点の切り替え」があるということです。

本記事では、私が実際に経験した「無償対応の罠」という失敗談を交えながら、運用リーダーが持つべき「コスト意識」と「サービス全体像」の捉え方についてお話しします。

この記事の想定読者

  • 3〜5年目の、一通り現場作業ができるようになったインフラエンジニア
  • 現場の「便利屋」状態に陥り、リーダーへのステップアップに悩んでいる人

この記事を読むことでのメリット

  • 作業者」と「マネージャー」を分ける視座の決定的な違いがわかる
  • 自分の作業を「技術」ではなく「コストと対価」で語る方法が学べる
目次

「親切心」が招いた、未来の自分たちへの絶望

若手の頃、私は「これくらいならすぐ終わるし、サービスしておきますね」と、依頼を無償で受けることがよくありました。当時はそれがエンジニアとしての「美徳」だと思っていたのです。

しかし、この安易な判断が、数年後に逃げ場のない悲劇を招きました。

脆弱性対応という名の蟻地獄

最初は「OSのパッチを当てるだけ」の簡単な作業でした。しかし、システムが古くなるにつれて、Java、Apache、DBといったミドルウェアのアップデートも求められるようになりました。

  • 運用担当の視点: 「コマンドを打つだけならすぐ終わる」
  • 現実の工数: 業務アプリとの互換性確認、本番同等の検証環境での試験、アプリ担当者との緻密な調整……。

気づけば、一行のアップデートのために数十時間の工数が発生する事態になっていました。しかし、過去に「無償」で受けてしまった経緯があるため、追加費用を請求してもなかなか首を縦に振ってもらえません。結果、チームは疲弊し、本来やるべき「新しい提案」に時間を割けなくなってしまったのです。

【ここが突破口】 自分の工数も、提供するサービスも「タダ」ではありません。将来の工数増大を見越し、適切な対価を求めること。 それは冷たさではなく、サービスを健全に継続させるための「誠実さ」なのです。

「100人の調整」を乗り越える、リーダーのオーケストレーション

インフラが200台規模、システム数が10を超えてくると、もはや「技術力」だけでは太刀打ちできません。

サーバーを叩く時間より、人と話す時間が価値を生む

基盤の停止を伴うメンテナンスを行う際、私は驚くほど多くの関係者と向き合うことになります。

  • ステークホルダーの多さ: 各システムの顧客担当者が約30名。運用・開発を含めた関係者は100名近く。
  • 利害の衝突: 「新機能のリリース試験があるから止めないで」「この日は商戦期で絶対に落とせない」

100人いれば、100通りの「止められない理由」があります。若手の頃は「なぜ決まった時間に止めてくれないんだ」と不満を感じることもありました。

しかし、サービスマネージャーの視点に立つと、見え方が変わります。 「技術的に止めること」は誰でもできます。しかし「100人の合意を取り、ビジネスを止めずにメンテナンスを完遂すること」は、極めて価値の高いマネジメント技術なのです。

リーダーへ脱皮するための「3つの思考スイッチ」

手順書に従う側から、手順書を作る(リーダー)側へ回るために、明日からこの3つのスイッチを意識してみてください。

「やり方(How)」の前に「コスト(Cost)」を問う

依頼を受けた瞬間、反射的に「どう実装するか」を考えるのを一度やめてみましょう。

  • 「この作業に、メンバーの工数は何時間かかるか?」
  • 「もし外注したら、いくらの見積もりになるか?」 このコスト意識を持つだけで、顧客との対等な「交渉」が始まります。

「ユニット(点)」ではなく「サービス(面)」で捉える

「サーバーが動いているか」ではなく、「顧客のビジネスが回っているか」に目を向けます。 障害が起きたとき、自分の担当範囲が直ればOKではありません。「他システムへの波及は?」「今日の顧客の業務スケジュールにどう響く?」と、思考の範囲を広げてください。

「受動(待ち)」から「能動(攻め)」へ

「言われたからやる」のは運用担当です。「将来のこのリスクを回避するために、今のうちにこの予算でこれをやりましょう」と、リスクとリターンを語れるのがサービスマネージャーです。

おわりに:インフラエンジニアの価値は「現場」にある

18年この仕事を続けてきて確信しているのは、「運用を熟知しているエンジニアこそ、最高のリーダーになれる」ということです。

現場の痛み、調整の泥臭さ、システムの癖。それらを知っているあなただからこそ、顧客に対して説得力のある提案ができるはずです。

目の前の作業を「点」で見るのをやめ、サービスの「全体像」に思いを馳せてみてください。その瞬間、あなたのキャリアの壁は、音を立てて崩れ始めるはずです。

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この記事を書いた人

もっちのアバター もっち インフラエンジニア/サービスマネージャ

・関東大手SIer勤務
・10システム、仮想サーバ約200台の基幹系システムが稼働する仮想化基盤のインフラ運用リーダー

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