18年の現場経験で分かった、インフラエンジニアの生成AI活用術:スクリプト作成から深夜のエラー調査まで

もっち

大手SIerに18年勤務。オンプレ・クラウド計200台規模の大規模インフラ(10システム)を統括する現役のサービスマネージャーです。

システム運用・インフラ技術、マインドセット、キャリア戦略など、現場で役立つ情報を若手エンジニアへ向けて発信中。

インフラエンジニアの皆さん、こんにちは。もっちです。

大手SIerで18年、約200台のサーバを保守・運用してきた中で、システム運用の現場は常に「予期せぬエラー」と「時間制限」の戦いであることを痛感してきました。そんな過酷な現場において、今や生成AIは欠かせない「副操縦士」となっています。

以前、私は以下の記事で、AIを利用する際の「マインドセット」と「鉄の掟」についてまとめました。

今回はその「実践編」として、スクリプト作成から深夜のエラー調査まで、私が現場で実際にどのようにAIを使い、どのように検証しているのか、具体的な戦術を論理的に解説します。

この記事の想定読者

  • AIを実務にどう取り入れればいいか知りたい
  • インフラエンジニアのAI活用術を知りたい

この記事を読むことでのメリット

  • AIを「思考の壁打ち相手」にして原因を特定する技術が身に付く
  • 自分の言葉で「判断の根拠」を語るためのプロンプト術が身に付く
目次

事例:深夜2時の「作業中止」を回避したAIとの対話

インフラ実務において、AIが最も価値を発揮するのは「未知のエラー」への一次対応です。

【ケーススタディ:夜間アップデート作業】

ある日の深夜2時、基幹システムのソフトウェアアップデート中に、検証環境では発生しなかった未知のエラーに直面しました。綿密に計画を立て、関係各所と調整を重ねてやっと確保したメンテナンスウィンドウです。解決できなければ、その場で「作業中止・切り戻し」を判断し、再調整に奔走しなければなりません。

夜間は保守ベンダーへの即時連絡も難しい中、私はAIを「思考の壁打ち相手」として活用しました。単にエラー内容を投げるのではなく、インフラ構成、直前の操作手順、出力されたエラーログの全文を提示。さらに、結論だけを求めず「解決策に至る思考ロジックをステップバイステップで説明すること」を条件としました。

AIが提示したロジックから、特定のライブラリ競合の可能性が浮上。それをヒントに公式ドキュメントで裏取りを行い、その場で修正を適用することで、計画通り作業を完遂できました。

論理的な教訓:

AIは「答え」を出す装置ではなく、人間が「判断」するための「仮説」を高速に生成するツールです。


深夜の呼び出し中にAIという「相談相手」がいるだけで、孤独な戦いの心理的ハードルはぐっと下がります。

ツールを駆使して作業時間を短縮するのと同時に、深夜対応特有の「心を削るプレッシャー」とどう付き合っていくか。 18年この現場を生き抜いてきた私のメンタル管理術も、あわせて読んでみてください。

実践:AIへの「コンテキスト(背景情報)」提供

精度の高い回答を得るためには、AIに「現場の状況」を正しく認識させる必要があります。インフラ特有の制約条件をプロンプトに組み込むことが、事故を防ぐ第一歩です。

インフラ構成情報の提示項目

カテゴリ提示すべき具体的な情報
環境スペックOSのバージョン、カーネル版数、HWモデル、適用パッチレベル
システム構成冗長化(Active-Standby等)、クラスタ構成、ストレージ接続方式
ネットワーク所属セグメント(DMZ/内部)、通信要件、プロキシ・FWの有無
運用制約停止調整の可否、利用可能なツール(Ansible/Python/CLI等)
負荷考慮本番稼働中か否か、実行コマンドのリソース消費に対する許容度

AIに「この調査コマンドを実行した場合、本番環境への負荷影響はどの程度想定されるか?」と確認する習慣を持つことも、インフラエンジニアとして重要なリスク管理です。

自動化:スクリプト作成の「安全な検証サイクル」

運用スクリプトやマクロを生成する場合、AIが書いたコードをそのまま本番環境で実行することは厳禁です。私は、以下の「三段階の検証プロセス」を必ず経るようにしています。

インフラ自動化の検証プロセス

フェーズ実施内容
1. 構造理解生成されたコードの各行の意味をAIに解説させ、挙動を100%理解する。
2. 開発環境検証独立した小規模環境で、構文エラーや基本的な戻り値を確認する。
3. 検証環境検証本番同等の構成で、異常系(エラー時に安全に停止・ログ出力するか)を確認する。
4. 本番適用実行ログを記録し、万が一の切り戻し手順を確保した上で実施する。

AIに対し「結論の根拠となった参照元と考え方」を提示させることで、コードの意図が明確になり、エンジニア自身のスキル向上にも繋がります。

事例:AIの「嘘」から学んだリスク管理

AIは時に、極めてもっともらしい「嘘(ハルシネーション)」をつきます。特に「事実(Fact)」の確認において、この傾向は顕著です。

【ケーススタディ:EOSL調査の落とし穴】

ハードウェアの保守期限(EOSL)を調査するためにAIを利用した際のことです。提示された日付を鵜呑みにしてリプレース計画の策定を進めていましたが、後に保守ベンダーへ正式な確認を行ったところ、AIの回答が数ヶ月間違っていることが判明しました。

危うく誤ったスケジュールで各所への調整を完了させてしまうところでしたが、最終決定前のダブルチェックで修正が間に合いました。

論理的な教訓:

AIは「情報のインデックス(目次)」としては優秀ですが、確定的な日付や仕様、リリース情報の「エビデンス(証拠)」にはなり得ません。最終的な事実は、必ず公式サイトや保守契約に基づくベンダー回答から取得する必要があります。

役割分担:判断の責任は常に人間にあり

インフラエンジニアとして、AIに任せる領域と、人間が堅持すべき領域を明確に定義することが、長期的なシステムの安定稼働に繋がります。

AIと人間の役割分担表

項目生成AIの役割エンジニア(人間)の役割
情報処理膨大なログの要約・パターン抽出・一次解析提示された情報の正誤判断とリスク評価
アウトプットスクリプトの雛形作成、Markdown構成案の生成実環境への最適化、脆弱性の排除、最終テスト
意思決定複数の解決策・仮説の提示最終的なGo/No-Goの判断と結果への責任
説明責任回答に至る論理プロセスの提示顧客や組織に対する納得感のある説明と合意形成

おわりに:AIを使いこなし、プロとしての判断力を磨く

若手エンジニアの皆さんに最後に伝えたいのは、「AIが出した答えが、本当に自社のインフラ構成に合致しているか」を常に問い続けてほしいということです。

「AIがこう言ったので」という報告は、プロの現場では通用しません。AIに思考ロジックを提示させ、それを自分の知識や外部ソース(ベンダー回答、公式ドキュメント)と突き合わせる。その「答え合わせ」のプロセスこそが、AIに代替できないエンジニアとしての「現場力」を育てます。

AIという強力な副操縦士を賢く使いこなし、浮いた時間を「より堅牢なシステム設計」や「将来の技術への投資」に充てていきましょう。


生成AIという強力な武器を手にしたことで、私たちの働き方は大きく変わろうとしています。

変化の激しいAI時代に、私たちインフラエンジニアがSIerという土俵でどう価値を出し、生き残っていくべきか。 ツールを使いこなしたその先にある「エンジニアとしての生存戦略」を、一度真剣に考えてみませんか。

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